彼に出会ったのは、2003年の初夏のことだった。
出会いと言っても、はじまりは出会い系サイトでのネットを利用したものからだった。


その頃は、僕は毎週末に行っていたハッテン場へ行くことに飽き飽きしていた。

人が多くなり、ハッテン場の中に僕が一人で過ごせるスペースがなくなっていたので、
ハッテン場は僕にとって、もはや落ち着く場所ではなくなっていたからだ。

またそこで初めて会った見知らぬ人と激しいセックスをすることにもだんだん飽きてきていた。



僕は、出会い系サイトはISDNサービスでネットをしていたころから利用していた。

出会い系サイトでの出会いは、そこのサーバーを介してのメッセージのやりとりに始まり、
直アド(直接に繋がる自分の携帯電話などのメールアドレス)の交換などをして(最後までサーバー経由のメッセージのやりとりでも会えるけど)、会う約束をし、街中のどこかの喫茶店などで会って、
いろいろと当たり障りのない会話をして、気が合えば(この場合、Hしたい気が合えば)、
どこかでHをするという流れだ。



僕はそういうやりとりを何度かしていたけど、
『どんな会話をしても、結局Hするんじゃん』という思いがあった。

出会い系で知り会った人と、Hをするときは相手の家に行くか(都会で一人暮らしをしている人は賃貸マンション等に相手を呼ぶことも多い)、ホテルでHしていた。


Hしたあとは、「じゃあ帰るね」みたいな感じで帰っていく。
別に付き合うわけでもないので、Hした後の会話をすごく
鬱陶しく感じていたんだ。

それなら、ハッテン場でHする方が、気が楽だった。
不必要と思われるような会話をしなくて良いから。




出会い系では、ノリノリの感じでHを誘う内容の投稿を載せている人もいる。

「今晩、俺と面倒なやりとり抜きにして、速攻、ノリ良くHしねぇ?」

みたいな内容だ。


単にHだけをするのなら、最初から割り切ってそういうHだけを誘う内容の文面の方が、
内容はエロいけど、自分の欲望や欲求に忠実で、ある意味ではどこか爽やかさを感じさせるものもあった。


僕も何度か、そういう投稿を載せた人と、ハッテン場の「中」で待ち合わせをしてHをしたことがあった。

もちろんHをしたあとは、その場で立ち去っていく。
ハッテン場を一緒に出て、喫茶店に行くなどはない。




出会い系の利用者も、ハッテン場の利用客と同じように、初期の頃は利用者の年齢層が高かった。

日本で一番最初に出来たゲイの人向けの出会い系サイトは96年に出来たものだけれども、
そのころのネット利用は、普通の電話回線で従量課金制での利用だったので、個人でネットを利用している人はパソコンマニアなど一部の人だけだった。

なので、この最初に出来たゲイ向けの出会い系サイトを出来た当初から利用していたゲイの人はほとんどいない。

99年終わりから2000年初めにかけて、現在一番多くのゲイの人が利用している某出会い系サイトが出来た。
そこが出来た当初は、ゲイバーやハッテン場の受付あたりに小さなパンフレットやチラシなどを置いて、宣伝していた。

僕もそのチラシを見てそのサイトを知ったのでよく覚えている。今だと宣伝にはバナー広告などをしたり、
あるいはもう宣伝しなくても「ゲイ 出会い」で検索するれば検索結果上位に来るようにまでなっている。

そのサイトが始まった当初の2000年代初期は、まだまだ利用している人が少なかった。
少ないと言うよりも、皆、様子見という感じだったのかも知れない。
投稿があまりなかった。僕が自分から投稿したら、それに対してけっこう多くのメッセージが届いたりしていた。

利用者の年齢も20代後半から30代40代が中心だった。
ISDNからADSL、光ファイバー、そして携帯電話の通信定額制、スマホの時代になるにつれ、投稿者の年齢も低年齢化していった。

最近は、ほとんど20代中心と言っても良いくらいの年齢層になっているようだ。

当初の30代、40代(50代もけっこういた)で、ガンガン投稿していた人達は、
一体どこに行ったのだろうと思ってしまう。

おそらく低年齢化に伴って、自分のプロフ(プロフィール、自分の「身長*体重*年齢」を例えば「173*62*24」などと表記する)の年齢が高いと、投稿を載せても、メッセージが来なくなり、
また投稿している人へメッセージを送っても返信がなかったりして、だんだんとフェードアウトしていったのだろうと思われる。



出会い系サイトでは、色々な掲示板の種類がある。

一番投稿が多いのは、「18禁(18歳未満禁止)の出会い」板だ。
この板では速攻でHしようという誘いの内容が多い。


「趣味」の掲示板というのもある。
たとえば、「バレーボール好きの人いませんか?みんなで集まってバレーしませんか?」などの内容だ。
この板は当初から利用者が少なく、まただんだんとSNSサイトに取って代わられてしまっている。


他は「ウォンテッド」板なんてのもある。
「街で見かけたあの人へ」などの内容で、たとえば街中で通り過ぎた人で気になった人とか、銭湯で見た人などへ
「もしこの掲示板を見ていて、こっちの世界の人だったら連絡ください」みたいな内容だ。

まぁほとんど一方的な思い込みの内容がほとんどだけれども、
街中とかで会った人のことが気になって忘れられないことって誰しもあるのかもしれないなと思えて、読んでいて面白かったりする。中には切ない内容のものまであったりする。



18禁板と合わせて、もう一つ投稿が多いのは「まじめな出会い」板だ。

ここは、速攻Hをすることを目的としておらず、ゲイの恋人や友達を募集する内容だ。
たとえば「真面目な方と出会いたいです」とか「こっちの世界に友達がいません。友達募集です」などの内容だ。

僕はそれまで出会い系サイトの利用は、専らHをすることの為に利用していたので
この「まじめな出会い」板は使っていなかった。ほとんど避けて、読んでもいなかった。


しかし、その頃、ハッテン場の人が多い状態や、激しいHに飽きていたこともあって、

こういう「まじめな出会い」板の方も、一度観てみようと思っていた。






ある日、「まじめな出会い」板の投稿を読んでいると、
気になる投稿があった。




「こっちの世界の人と仲良くなったり、付き合ったり出来るなんて嬉しく思います。
出来れば、色々な方と会って話をして仲良くなったり、付き合える人も出来たら良いなと思っています。
こんな僕ですが、まずはメールからやりとり出来ればと思っています。」


20歳の子の投稿だった。


僕はもうすぐ24歳になろうとしていたので、

『学生の子なのかな。学生の子とやりとりしてもなぁ。なんか気が引けるなぁ』

と思いつつも、なぜか興味を持ったので、たぶん返信はないだろうと思いながら

メッセージを送ってみた。