「もういいよっ」
僕は読んでいた本を自分の部屋の壁に投げつけて一人で叫んでいた。
98年僕は19歳になっていた。



その年、僕は高校を卒業して大学生になっていたんだ。
関西出身で大阪の大学に籍を置いていた。
家から大学まで電車で通える距離だったけど、通学に2時間ちょっとかかるし、一人暮らしをしたかったので、生活費は自分でアルバイトをして稼ぐという条件で親から一人暮らしを認めてもらっていた。
同じくらいの通学距離の人なら実家から大学まで通っている人がほとんどだったけどね。
でも僕は一人暮らしがしたかったんだよ。
まぁ一人暮らしと言っても大学生向けのアパートだったけどね。

7畳プラスキッチンのワンルームタイプの部屋にはいろんな本や資料を乱雑に横積みしていてね。本棚も置いていたのだけれど、そのスペースでは足りず部屋の至るところに、本を置いていたんだ。
自分の専門分野の専門書や他の分野の専門書、新書、小説、エッセイなどいろいろ。自分で本屋で買ったものや、大学図書館で借りたもの、地域の図書館で借りたもの、古本屋で買った古本、友達から借りたもの、そういうのを乱雑に置いていたんだ。
授業はあまり行かなかったけど、本はよく読んでいたからね。
漫画は1冊も置いてなかったね。漫画についての学術本は読んでたけどね。


ゲイについての本もあった。「ゲイについて」というよりも、もっと堅い内容の「同性愛について」の本だったけれど。「同性愛の歴史」とかそういう内容の堅い本だね。そういう同性愛についての新書や学術本を何冊か読んでいたんだ。



大学生活ではね、友達からコンパの誘いもいろいろあったけど、
1回行ったこともあるけどコンパに興味がないし、参加すること自体が「しんどく」感じられたので
誘いがあっても全く行かなくなった。
周りの友達はみんな異性と付き合ったり、Hしたりしていたんだ。

僕だけ取り残された感があった。

僕はそれまで、異性と付き合ったこともなく、興味のほとんどは同性にあった。
でも高校卒業までには、何回か女の子から告白されることがあったんだ。

学校の帰り道の夕方に待ち伏せされていたこともあった。これは結構、怖いよ。
暗くなった帰り道で、待ち伏せされているんだからね。で、相手の雰囲気で何を言ってくるのかがだいたい分かるから・・・。
「あ、あの・・・ヨースケ君のこと・・好きなんだけど・・・」みたいな感じで。
普通さ、その告白までに相手とアイコンタクトみたいなものをやったり、会話したり一緒に帰ったりしてさ、その流れでの告白なら告白を受けるほうも何となく分かるんだろけどさ。
そんなものは無くて、いきなり待ち伏せされて告白されたら怖いよ。

こっちには気持ちの受け入れ態勢がないからね。僕の場合は、アイコンタクトとかそういうのはなくて、いつもある日突然告白されるんだよな。

僕はそういうときはいつもどう言って良いか分からず、
「今はそういうのに興味ないんだ・・・」みたいな感じのことを言って「ははは・・・」と笑ってごまかしてその場を立ち去っていた。

今になって考えると、なんか可哀想なことをしたなと思うね。まぁ、相手も告白するまでにいろいろ悩んだりしていただろうからね。断るにしても、もうちょっと誠実に話をしてあげたら良かったなと今でも少し後悔するときがあるよ。



大学にはさ、
LGBTサークルみたいなものも、あるにはあったんだよ。
学校の構内の掲示板とかに色々なサークルのポスターとかが張ってあって、その中にLGBTサークルの小さなポスターもあったんだ。
「一人で悩んでいませんか?私達と一緒に活動しませんか?」みたいな文言で
「興味のある同性愛者の方はこちらまで 秘密は絶対守ります!!!」と携帯電話の番号が書かれていたんだ。
僕もその番号に掛けようかなと何度か思ったこともあるけど、僕は生来の団体行動嫌いな性格で、団体行動が「出来ない」ような行動障害はないのだけれど、とにかく団体行動的なものが「ヘドが出る」くらいに嫌いでね。
能力的には「団体行動」ではリーダーシップを発揮できるくらいの能力はあるみたいなんだけれど、とにかく昔から生理的に嫌でね。
せっかく一人暮らしを始めて、自分で自由に物事を考え始めたのに、何かの団体に入るのは嫌だったんだ。結局、そういうサークルには入らずに大学生活を過ごしてしまっていたんだ。


そんな感じで孤独に悶々とした日を送りながら、大学は前期が終わり夏休みに入った。
大学生ともなれば、自分から積極的に何らかのコミュニケーションの場に入って行かないといけないわけでしょ。サークルとかコンパとか。

でも僕は、自分から他人と「コミュニケーションが出来る環境」を作らずに、むしろ遠ざけていたから、おのずと夏休みは一人ぼっちになっていたんだ。



そしてその夏、自分の部屋で「同性愛者について」の堅い本を読んでいて、だんだん腹が立ってきたんだよな。

それで「もういいよっ。」と叫んで壁に本を投げつけたんだ。




『なにがヘテロセクシャルがどうの、ホモセクシャルがどうのだよっ。
そのなのどうでもええわっ。僕が知りたいのはどうやったら男とHが出来るんだ、どこでHが出来るんだってことだ。それを教えろやっ』
こういう気持ちだったんだよ。



そこでその夏に「男とHをする」ってことを目標に掲げて、
具体的にどうしようかと色々考えて行動に移したんだ。