20150206日付けの某SNSの日記より転載]





『春を待ちわびながら』





冬って気が滅入ることがあるよね。



とくに夕暮れ時は、心細くなるよね。



夕暮れ時に木の枯れたような枝を見上げると、まるで黒い影が伸びてきて覆いかぶさってきそうで不安な感じに襲われてしまう。





2月は冬の始まりと違って、寒さにはもう慣れた時期だけれど、

今度は身体も心も、内側に閉じこもっているような感じになってるよね。







夕暮れ時は、家路を急ぐ人混みの中で、自分のステップを見失いそうになる。







みんなが何かに列を作って並んでいる。ケーキやらドーナツやらなにやら分からないけれど、

とりあえずみんなが並んでるだから、僕も並ばなければいけない。

何を買いたいのかよく分からないけれど。

寒いからみんなが早足で家路を急ぐ。

みんなが急いでるんだから、僕も急いで家に帰らなくては。帰っても何があるわけではないけれど。













昔から、人混みが嫌いだった。

そして気分が塞ぎこむ冬も嫌いだ。









辛抱すれば、もうじき春がやってくるさ







そう、自分に言い聞かせながら今日も歩いた。













空気が冷たく重く感じるときには、
暖かく軽やかな気分になるような、

そうしてくれる何かを求めてしまう。







気分が塞ぎこまないように、自分のステップを見失わないように







暖かく軽やかな気分になるような

暖かく、軽やかな







過ぎ去った日々のことをふと想う。







暖かく軽やかな気分になるような

暖かく、軽やかな










 

それは、光り輝いて、とてもまぶしく

そして古ぼけたセピア色の写真のように 優しく温かなイメージで

僕を昔の日々へと連れて行く

















バカバカしいほど、どうでもいいことで、はしゃいだ日々だった。

友達がするエロい話にも参加した。

一人Hのバカなやり方も語り合った。

休み時間に先生のモノマネもした。

部活動もやった。夏には砂埃が舞うグラウンドに水も撒いた。

友達と帰り道にミスチルの曲を歌いながら、長い登り坂をチャリを立ちこぎで競争しながら帰った。









そして、彼がいた。






そばに居るだけで楽しかった。

二人で休みの日に遊びに行ったりもした。
バカ話もいっぱいした。





だけど、彼に告白はしなかった。



そんなことはどうでも良かった。







保健体育の授業では少しだけ同性愛者の話をする。
「こういう人も世の中にはいるんだよ」と。

「ここにいますけど」と思いながら、そうは言わなかったけれど。

そんなこと、どうでも良かった。



メディアでもLGBTの人がときたま取り上げられていた。

LGBTの権利を!社会的な権利を!」

それはそれで良いことだけれど、僕にはどうでも良かった。







彼に何を言えば良かったと言うのだろう。



自分はこういう人間だから分かって欲しいって?

そういう人にも権利があるんだよって?





そんなことはどうでも良かったんだ。



それを伝えて、彼が恋人になるわけでもなかったから。





そこに一緒にいて、そこでバカ話をして

一緒に笑い合えれば。





想いが伝わらなくても、ただそこで一緒に過ごすだけで楽しかったんだ。





僕にはそれで、充分だった。













彼のことが好きだった。



























良い、悪い、合ってる、間違ってるなんて、

一体誰がどう判断できるというのだろう。









ネットなんてなかった。

出会いなんてなかった。










そこには、思い通りにならない青春があった。


想いが届かなかった。

届けることができなかった。






しかしながら、届くことはないという想いを抱えた青春があったんだ。








それは今、思い描いても


まぶしいほど光り輝いて

僕を、暖かく、軽やかな気分にさせてくれるような日々だった。







 
暖かく軽やかな気分になるような

暖かく、軽やかな







冷たい風が吹き抜ける冬の街中で、それを想う。

けれども雑踏のなかでは、

その想いは周りには届かない。













それでも僕は歩いていく。



いつか、来る

来ないかもしれない





それでも良いんだ





僕たちは想いを持った人間なんだから







春を待ちわびながら。