12月になると、クリスマスや年末のシーズンに合わせるかのように梅田は人で溢れている。

平日の夕方には帰宅途中のスーツを着たサラリーマンやOLや学生などの人込みが流れ
また休日には主婦や若者、家族連れなど私服を着た人で溢れかえる。

年末に近づく12月になると阪急百貨店前のコンコースの吹き抜けの天井や壁には、
様々な色のライトによって色々な模様が描かれたイルミネーションが施され、それは「こぢんまり」としたものだが、神戸ルミナリエのミニ版という感じのもので幻想的な空間になっていた。





僕は彼と実際に会ってから、彼とのメールのやりとりが増えた。
それは、彼も同じで、どちらからともなく、お互いに時間があればメールを送っていた。


また週末に何度も喫茶店で話をしたり、
梅田の街中を二人でぶらぶらした。


僕は少しづつ彼のことが好きになっていた。
彼の方も、僕に気があるような感じでいるのが、何となく分かっていた。


しかし、僕はそれまで不特定多数の人と激しく、その場限りのセックスをするというやり方で人とのコミュニケーションを取っていたので、
もし彼と付き合うと、なにか彼を汚してしまうのではないかと少し気になっていた。

そして、僕にとっては不釣合いかなとも思っていた。



彼に「今まで誰かと付き合ったことあるの?」と尋ねると

意外にも彼は高校3年のときに年上の男性と付き合っていたようだった。
僕は、最近ではネットの影響で高校のときから付き合う子もいるんだなと思った。



また僕は思い切って
「ゲイバーとかハッテン場には行ったことあるの?」と彼に聞いた。

彼はゲイバーにはまだ行ったことがないと言った。

しかし、ハッテン場については、ネットでその存在を知って、一度行ったことがあると言った。

でもよく話しを聞くと、彼は一人でハッテン場に行き、ロッカールームで着替えて、暗い部屋の中に入ったときに
「怖い」と感じて、すぐに帰ってしまったようだった。


僕は彼の話を聞きながら、ふふっと笑ってしまった。


ハッテン場のあの暗い感じは、確かに「怖い」と言えるかも知れない。
それをそのまま「怖い」と感じて帰ってしまう彼の感性が、僕は好きになった。



彼は僕とは対照的とも言えるような性格だった。

彼は真面目なのだが、どちらかと言うと明るく、ほがらかというような感じで、僕にはない素直さを感じた。

また「自分がゲイである」ということについても、あまり後ろめたさは感じておらず、
むしろゲイバーや出会い系などの「ゲイの世界」があることを初めて知ったときには

「自分の好きな男の人と付き合っても良い世界があるなんて、素敵なことだよね」
というようなことを言っていた。





ある日、彼が、僕が一人で住んでいる賃貸マンションへ「手紙を送るよ」と言ってきた。
僕は一人暮らしで、彼は実家で暮らしていた。

僕はそう言われて、
「でも僕は一人暮らしだから良いけど、君に返事を出すときに家の人に変にバレたりするんじゃない?」
と言ったけど

彼は「ハガキじゃなくて封筒で送れば中身はいくら家族でも見ないから大丈夫だよ」と笑いながら言って、
僕に自分の住所を教えてきた。




それからは毎日、メールをしつつも、メールではうまく伝えることが出来ない気持ちを手紙に書いてお互いに送り合いをしていた。




僕にとっては、初めてのラブレターの交換だった。




そして、いつしか僕は恋に落ちた。





彼も付き合うことにOKを出してくれて、二人は付き合うことになった。








ある日、彼とHをしているときに

「ねぇ、ヨーさん、生で入れてくれないの?」

と言われた。

僕は少し戸惑って

「いや・・・ダメだ・・ ゴムなしの生だと逆に立たないんだ・・」

と自分でも訳の分からないことを言ってごまかした。




もし何かの感染症に感染していたら?
気づかないうちに、彼に感染させてしまったら?




僕はそれを恐れ、そういう思いに囚われていた。



それならHIVや性病の検査を受けに行けば良いのに、それを受けに行こうと思うほど、
どこか身体の調子がおかしいこともなく、またそこまでする勇気もなかった。



『身体も健康そうだし、気になる症状とかもないから大丈夫だろ。もし何かが発覚して、今の彼との関係や、今の生活を変えたくもないし・・・。』



こういう感じで、漠然とした恐怖に囚われつつも、すぐにそれを自分の中で打ち消していくことを堂々巡りのように繰り返していた。



そしてまた、彼と出会ってからは、それまで毎週末行っていたハッテン場には全く行かなくなったので、
こういう堂々巡りする心配事や、またハッテン場で僕が自分の心の中に見つめた闇を、
僕は自分の心の奥底に封じ込めていった。






『大丈夫さ、なるようになるさ』と自分に言い聞かせながら